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   これまでの研究の概要及び今後の研究

(1)これまでの研究概要

私は、中国文化の現代的変容について、とりわけ、中国少数民族文化、中国雲南省麗江納西族の東巴象形文字について、専門的に研究を続けてきた。もともと宗教的な儀式においてしか用いられることのなかった東巴文字が、90年代以降の観光産業の発展にしたがって、文化的シンボルとして新たな利用が行われている状況を明らかにした。

 東巴文字とは、納西族の伝統宗教の東巴教において宗教儀式を記録するため、東巴祭司たちが用い、東巴経典に現われた象形文字である。研究の対象区域は中国の納西族が最も居住している雲南省の麗江に定めた。近年、中国の少数民族地区である麗江区域において、観光業がめざましく発展し、脚光を浴びている。その発展には東巴文字の存在が大きく関係している。先にも述べたように、東巴文字は本来、宗教祭司のみが用い、一般の納西族の共有する文字ではなかった。しかし1990年代以降の観光業の発展にしたがって、東巴文字が麗江の納西族のイメージとして扱われるようになったのである。

歴史上、麗江の社会は大きく変化し、宗教に対する人々の考え方も紆余曲折を繰り返し、宗教文化の一部を構成する東巴文字に対する人々の態度も、時代によって変化を遂げてきた。しかし、この十数年間における麗江の観光都市化によってもたらされた変化については、これまでほとんど研究の対象とはなってこなかった。そこで筆者は、東巴文字をデザイン史的な観点から捉え直し、近年の文化変容の実態を明らかにしようと考えた。まず東巴文字の変容過程を政治的、経済的、社会的文脈からできるかぎり明らかにした。さらに、近年の東巴文字をめぐる社会的な保護や伝承活動の実態に迫り、そこから東巴文字の変容に伴う、納西族の新たなアイデンティティーの形成について検討した。

(2)今後の研究予定

 
現在は、これまでの研究を深めつつ、少数民族文化の問題についても研究を進めている。図像イメージをはじめとする少数民族文化が民族の枠を超えて越境し、多文化と接触することによって、文化の享受者、及び文化そのものにどのような影響を与えるのかを、明らかにしていきたい。とくに現代中国は、そのような越境が様々な地域で行われつつある。しかも、そこには、これまでにない経済発展の大きな波が影響を及ぼしている。納西族の象形文字を含め、雲南省の少数民族文化の変容に注目しながら、その文化が他国へ流出する経緯や、文化の相互的な需要についても、深く研究していきたい。日本における東巴文字の需要だけをとってみても、興味深い現象を数多く指摘することができるはずである。東巴文字が国際的に受容される過程についての研究は、民俗学分野においても、新たな研究分野を開拓する事例となると確信している。中国の少数民族文化芸術の研究を深めることにより、中国文化についての新たな知見を提供することができるものと考えている。